2009年04月11日

EECY吹利分室(仮)・桜2

ちうわけで。
何だか週末、腰痛でぐったりです。

人間って直立歩行が出来ないと、ほんに役に立ちませんねえ……

というわけで。


  現場百遍、だっけ。とにかく現場には何度も行け、みたいなのがあったと思う。
『その代わりに、私達はデータ百回。人間の目で見て判らないことは、パソコンでもわからないんですから』
 卒論の指導をしてくれた先生はそれが口癖だった。


 書類を見ながら、データの位置を定め、地図上の点データとして記してゆく。
 書類のうち、幾つかはあんまりあてにならない話らしく、斜め上に?のマークがついている。そういう違いについては、属性情報として与える。こうしておくと、後で、同じ属性を持つ点は、同じ色に染めることができる。
 現場百遍。その代わりにデータ百回。そうやって色を変えた点を見ながら、傾向を掴む。

 そもそも自分が、この分室への就職を勧められた理由は、実はこの技術のせいではないか、と思っている(というか、そもそも就職ってそういうものだよね。瞬間移動とか読心術で就職するもんじゃないよね……)。元々、森林の生態を専門にしている研究室に居たから、こういうデータの解析はそれなりにやってきている。現地を調べたデータに、地形や道路、標高などの立地条件的なデータを組み合わせ、『こういう条件下ではこういうことができます』的な予測モデルを作る。点のデータから面のデータへ、予測をかける……ただ、その前に。
『特徴を、まず見るんです。数値だけじゃなくて』
 変なところに変な点はないか。見た感じ、何か傾向があるのかどうか。
 そういうものを、まず見ろ、と先生はよく言っていた。

「すいません、一応、データ入れてみました」
 ほう、と、呟いて、田崎さんが立ち上がる。
「ちょっと見てもらえますか」
 言う前に、肩の辺りに気配が集まる。うわわ、と、小さな声と一緒に、肩に手が触れた。
「ご、ごめんなさいっ」
「あ、タカちゃんは、うん、左っ側に来てくれたほうがいいかな」
「はい」

 全員が画面を覗き込む。
「ええとですね、これが、最初の3年のデータです。赤が、被害者が行方不明になった場所。青が見つかった場所」

 最初の一年目は一件のみ。次の年は無し。だが、その次の年は、3件の被害があったことになる。
 遺体の発見された場所は、秋田の海沿い、長野の山の中、そして筑波山。

「よく、見つかりましたね、こんなところで」
 覗き込んでいた馨さんが驚いたように言った。点を落としたのは地図の上、標高に準じて色をつけてあるのだが、どの点も、かなり標高の高い……つまり、山の中に青の点が落ちている。
「一応、相手が桜鬼ですから」
 穏やかな声は、田崎さんのものだ。
「恐らく見つかるとしたら森じゃないかと思ったので」
 それにしても。
「でも結構、これ……無茶ですよ?行ったことあるから判りますけど」 
 同じ場所じゃないけれど、森林の調査は行ったことがある。山なんてちょっと入ると、もう簡単に行方不明になれるもんだと思うんだけど。
「そこらは、私もよくは判らないんですが」
 田崎さんも困った顔になった。
「ただ、見つかったのは……確かに、一番かかったので一週間ですね」
「そこらを、どうやって見つけたのか、その方法って知ってる方いますか?」
 ううん、と、田崎さんは首をかしげた。
「零課に問い合わせておきます。その人がまだ残っていればお聞きできますしね。でも、どうしてですか?」
「だってこれ、全国から、3つの山を選んだってだけで凄いですもの」
 それにはどういう、と言いかけたところで、田崎さんは苦笑した。
「それはね、多分、くじ引きかなんかだと思いますよ」
「……え?」
「直感、第六感については標準以上がごろごろ揃ってますからね」
「あーー」
 そのやり方じゃ、ちょっとダメか。

「それで、次の3年は?」
「あ、はい」
 マウスを動かして、クリック一回。
「ん、この増えたのがそう?」
「ええ」
 次は、3年のうちに5件。
「……吹利県じゃないです、ここ」
 ちょこん、と指を伸ばしてタカちゃんが言う。
「ああ、それ。それは偶然なんだよ」
 やっぱり覗き込みながら、田崎さんが応じた。
「そこは、千本桜だろう。それはね、まず家族から連絡があったんだと思う」
「というと……自殺ですか、元々は?」
 さらり、と乾いた声は馨さんのもの。あっさりとした問いに、やっぱりあっさりと答えが返る。
「一応、ちゃんと遺書があったようだね。それで御家族から連絡を受けて……それで」
 それで探したら、どうやら、最後に持っていた鞄だけがそこにあったという。
「それで、見つかったのは……四国?」
「うん」

 秋田。長野。筑波山。四国のこれは……
「魚梁瀬杉?」
 ふと、思い出す。行ったことは無い、でも、一緒に仕事をした人が。
「やなせ?」
 鋼のような片帆さんの声が不思議そうに響く。
「うん。秋田の……これは白神で、長野は一面あちこち天然林、それに筑波山はブナの天然林」

 現場百遍。その代わりにデータ百回。
 先生の言うことは正しかった。
 
「これ……被害者の見つかった森林は、ここまで見る限り全部天然林。それに、殆どが……今、衰退しかかってる森林です」
posted by 片帆 at 23:00| Comment(0) | TrackBack(0) | EECA | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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