2009年04月02日

EECY・吹利分室(仮)その・1

ちうわけで。
ちとまた続き。


**********
 以前、友人が、言っていたことがある。
「前にね、テレビ見てて凄く驚いたんだ」
 それは、或る中東の国の風景。絶え間ない紛争の続く国で、閣僚が招集される、或る意味ではけれんの無い風景。
「集まってくる閣僚のね、役職が出るわけよ、テロップで」
 総理大臣。防衛大臣。そこらはまあ当たり前なのだが。
 次の瞬間、友人はうわあっと声をあげたという。
「次がね……宗教大臣、だったんだよ」

 考えてみれば当たり前。あの付近の国は、宗教のトップが変われば国の路線も変わるっていうくらいに、宗教が国の方向を決める。当然宗教省だって宗教大臣だって居るだろう。
 だけど。
「政教分離を叩き込まれてるんだよ、うちらは。だから宗教と、大臣って単語が並んだだけでうわああっと驚いてしまった」
 考えてみればあっちの国の人は、日本に宗教大臣が居ないって知ったら、やっぱりうわあっと驚くのかもね、と、彼女は笑っていたものだが。

 前置きが長いかもしれない。でも、実はこれ、うちらの部署がなんでしれっと認められたか、ということに、関連するのだ。

            **

「おはよーございまーす」
 開いた扉をくぐりながら挨拶する。
「おはよ」
 毎度一番乗りの相手から、素っ気無い声が返る。
「あれ、田崎さんはまだですか」
「今日は、先に零課に寄ってくるって」
 椅子の上に鞄を置き、部屋の片隅に無理やりのように作られた流しに近づく。小さな冷蔵庫から珈琲の粉を取り出して、最近新しくしたばかりの珈琲メーカーにぶち込む。
「馨さん飲むよね」
「うん」
 洗い物を伏せた籠から、自分のと彼女のカップを取り出し、珈琲メーカーの隣に並べる。壁に取り付けられた、実は研究用純水の蛇口をひねって、水を珈琲メーカーに入れて。
「何かありますか、仕事」
「……さあ」

 黒のニットの上下が異様に栄えるくらい色白の彼女は、ようやくPCに向けていた視線をこちらに向けた。

「今のところ、データベース作成、じゃない?」
「はあ」
「他にすること無いし」
「……はあ」

 部屋の中心には、テーブルがひとつ。そしてその周囲、それぞれ壁に向かってPCの乗っかった事務机が人数分。テーブルの上に載ったファイルには、それぞれ北海道、東北、と地方名が振ってある。そのうちの「中部」を取り上げて、席に向かう。

「これ、位置の特定が出来てないのはどうするんです?」
「一次メッシュの位置もわからないかな」
「……もし判ったら、それを入れるんですね」
「そうそう」

 ごぼごぼいいだした珈琲メーカーを放置して、パソコンのスイッチを入れる。画面のアイコンのうち、YDBと注釈の書かれた四角を叩くと、データベース用のソフトが立ち上がる。

・名称
・簡単な説明
・出現する地域
・発見された位置

 手元のファイルを開きながら……いつもの、何となくくらくらする感覚に襲われる。これは別に、こちらの認識に柔軟性が無いとかそういうことじゃないと……自分では思っている。
 YDB。
 妖怪・データ・ベース。
 ほんとこう……何考えているんだろう、と、現代日本に生きている身分としては、思わずには居られない、んだけど。

 だけど。

 ここで冒頭に戻る。こういうファイルが実在し、そしてそれをデータベース化する為のソフトが作成されている理由。自分の常識では存在しない筈のものが存在している理由。日本では存在しない宗教省が、その国にはあるように。

 つまり。
 今自分が居り、この分室のある吹利県には、データベース化して使用したいくらいの妖怪やらあやかしやら異能者などが居る、ということなのである。

「おはよーございまーす」
 何だか溜息をつきたくなった、その背中をどつくような元気な声、そしてその後ろから、
「おはようございます」
 よく響くけど、テンションは相当低い声。

「おはようございます」
「おはよ」

 そして。
 EECY……Environment and Environmental change for YOUKAI 分室の朝は、毎度こうやって始まるのである。

posted by 片帆 at 23:48| Comment(0) | TrackBack(0) | EECA | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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